かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

佐藤大輔 皇国の守護者 09 皇旗はためくもとで 感想

はぁ~…
あのさぁ…

蓮乃さんの新城への支離滅裂な言動や振る舞いも、保胤への一種の裏切りでもある新城へのお気持ちも。
全部ひっくるめて彼女の出来た人の良さが何とか手綱をぎゅっと握ってつなぎとめて彼女を良人せしめていたわけですよ。
つまりは自制できていたってところが重要なんですが、開幕あの始末ですよ。
最大の矛盾にして問題点ですよね。
新城は…まあ…自分を騙し通したと見ればまだなんとかですが、蓮乃はすべて諒解済みですからね。
一気に好感度が地の果てにまで堕ちて最期も悲しむ気持ちが一切わきませんでしたよ。
再読となると覚悟は出来ていたんですが、忘れていたということも相まって一度の誤りというわけでもないところが最高にBAD。
ストーリー上の役割としては重要な彼女ではありました。
彼女と新城の出会いが物語の大きな転機で、別れもまた大きな転機になりえたんでしょうね。たぶん。

思えば男くさいこの話も、女性はなかなかにターニングポイントでした。
まず蓮乃がそうであるし。しみじみ一巻冒頭を開くと麗子もそうなったのでしょう。
佐脇くんの致命傷は婚約者でしたし。
草浪道鉦の心の楔は長康でありましたが、逆鱗は妻の明野でした。
守原が明野の扱いを誤らなければ、少なくともあのような最後の行動には走らなそうな人物でした。
そもそもここまでの苦境に立ったのはユーリアですし、ユーリアの女性性は帝国でも人々を動かしてきました。

両性具有者も作中ではほぼ女性として書かれていましたし、
彼らは女性の絶対的な忠誠面を書きたかったのかしらん?
よく出る蓮乃もユーリアも皇国一般的な女性の振る舞いではなかったでしょうし。
単純に戦場に女性を持ち込む。だとか、将官の尻を女に掘らせたかっただけのような気もしますが。

とかく、主人公として英雄色を好ませようという読者サービスな面もありましたが、なかなかどうして語るに女性が外せない作品ではありました。
そうそう、千早も女性です。一番母性母性していました。

さて、内乱は。
空挺!後方装填式!と、溜まったフラストレーションを発散させてくれる程度にはスカッでした。
敵が短銃・鋭剣の将校たちというのはやや相手に不足ですが、そこは逆転を狙った近衛奇襲なのでヨシ。
新城の最終パーティーは同期生+個人副官+帝国将校+帝国皇族+龍族というヘンテコなものになりました。
この感じ、ハガレンの最終決戦を思い出しますね。あっちよりかはすごい豪華なメンバーですけど。これで近衛だというのだから諧謔の笑みのひとつも失笑してしまいます。

しかし、同期生。
この巻が始まりではないですが、彼らは全員が戦争を愉しんでいるのですよねえ。
新城自体は戦争を手段として扱う男だと思っているのですが、彼が信を置いている(しかも現役を離れていた!)彼らのこの愉悦のことをどう思っているのか。
これはかなり気になる部分でした。
単純に見ると新城はそれを唾棄すべきものとして扱うような気もするのですが…
内心はどうあれ良い将校としてふるまっていればOKそうかも。
なにしろ新城自体が内心は小心ここに極まれる自嘲自罰の人なので…。
許しはしそう。でも好むのかは謎です。
壮大なプロローグが終わり、ガーダーとしての活動が増えればそこらへんも描写されたのでしょうか…


ということで本作は終わりなのですが。
はい、壮大なプロローグでした。

湾岸戦から内乱まで、正直北領戦の出来を超えないんですよね。
全編面白くて、こうやって再読でも楽しんで読み終えることはできたのですけれど。
北領撤退戦が完璧すぎた。
漫画版が続いて欲しかったという話はちょいちょい見ますが、あそこで終わった良かったのかもと読み終わるたびに思います。
私も漫画版から入りましたが、原作を読み進めるとだんだんと既存キャラであっても伊藤さんのキャラデザが抜けていくんですよねー。(猪口除く)
だから、漫画版はあれでひとつの正解だったと思います。

原作については続いて欲しかった!!
剣牙虎!導術による優越!翼竜運用の発展!もっと見たかった…。
戦記ものは全然読まないのですが、今のところ一番好きなのです。
似たような作品が知りたい。
常にままならなさを描き、大勢も常に負けているものの面白いこの作品は貴重なんじゃないかなあと思います。
北領戦を超えられないといいながら、読み出すとまた最後まで読んでしまうような気がしていますし。

未完だけれど、許せる面白さがこの作品にはあるのです。