森見登美彦 ペンギン・ハイウェイ 感想
- 作者: 森見登美彦,くまおり純
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 文庫
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セーフ!!
来週映画公開かと思っていたら今週でした!!
はい。
二度目です。
最初はーもう6・7年前かな?
いや単行本で読んだから8年前?
当時はまさかまさか、あの腐れ大学生に年をとらせたような登美彦氏からこんなジュブナイル小説が飛び出るなんて!!!!!
っと驚くとともに、しっかり氏のエッセンスが濃密に行き届いていて。オモチロイ。
一気に登美彦氏の作品の中で一番好きな作品になったのでした。
で、本当に好きな作品特有の現象として大事に封印してきたのですが…
このたび映画化ということで、感想の嵐にさらされる前に、今一度新鮮な気持ちのうちに読み直そうとあいなりました。
氏は氏の作品を子供として扱ってますが、まさに子供のアオヤマくんが主人公の今作。
とにもかくにも彼が大好きなのです。
アオヤマくんはかしこい。しかも私が好きなかしこさだ。
子供がかしこい・天才というと、江戸川さんちのコナンくんみたいなのを想像しちゃいますが、
「子供なのに大人のように考える」子供はあまり好きではありません。
アオヤマくんは「彼が彼自身の努力によって得られる知識と想像力で物事をよく考える」のです。
子供らしいかしこさ。
あああああ
こんな説明じゃ1%も伝わらないのでもどかしい。
アオヤマくんは知らないことを知っているし、想像で補うことができるうえに想像であるということをことわれるし。
うううううううう
そして何よりおっぱいなんです。
いかん、言語化できない。
アオヤマくんの客観視っぷりはすさまじくて、でもそれはアオヤマくんが天才だからじゃなくて、
アオヤマくんのお父さんに習ってノートをちゃんととったりする積み重ねがあるからで、
一方でおおらかなお母さんの愛もあって、
ただ勉強できるだけじゃなくて、相手の側に立って考えてみることもできるし、相手を尊重できるし、
どんなにそのときの気持ちをノートに書いても、読み返したときに本当に同じ気持ちにはなれないと知ったし…
おっぱいが好きだしお姉さんが好きだし夜更かしはできないし…
いったい何を言えば良いんだ!読書ノートでも取っておけばよかった!
そんな、とにかく、純真すぎるぐらい純真でかしこいアオヤマくんなんですが、それでもこれは登美彦氏なんだなあと感じるんです。
登美彦氏のなんだか純真な部分がぽんと飛び出たような。
氏の子供の頃では決して無いけれど、氏の子供の部分、みたいな?
現実味があるリアルな子供描写ではないんですけど、何か懐かしいような、読んでいるとぽわぽわぴゅあぴゅあな気持ちになるのです。
そして対になるようにアオヤマくんのお父さんがいてですね。
彼はアオヤマくんに考え方を教えるんですよね。夜にはカフェに迎えにいったり、二人でドライブしたりもします。
お父さんは直接答えを出そうとはしないし、アオヤマくんもまた直接質問はしません。
二人は考える。考える。
そんな、アオヤマくんが行き詰ったときにちょっとだけ手助けをしたり、いい刺激を与え続けるお父さんは、
彼があってアオヤマくんがあるんだなと思わせるようなかっこいい人なのです。
あとこれは勝手な妄想なんですが、彼を映像化するときは顔(とくに目)を写さない感じが似合うと思っています。
脳内映像も常に影が射すか鼻下までのカメラワークでした。アオヤマくんが子供だから自然と脳内視点も低くなっているのも影響かな?
「それ町」の嵐山夫妻的なアレでどうでしょうか?
(このイメージも映像化見たくない理由だったり)
えーっと…それで、彼もまた、登美彦氏です。
登美彦氏の大人な部分だと思っています。放任、というと言葉が悪いですか。
見守りのその目線が、登美彦氏が自分の作品を語っているときのような温かみあふれ満ち溢れるものなのです。愛だよ愛。
「私は平気ですけど。お父さん、心配になることありません?」
「もちろんいつも心配していますよ。しかし、もうそんなことはあたりまえになってしまって、心配らしい心配とも言えないな。そういえば、息子は今、手強い問題をかかえているそうです」
「知ってます」
「でも、世界には解決しないほうがいい問題もある」
「そうかしら?」
「もし息子が取り組んでいるのがそういう問題であったら、息子はたいへん傷つくことになる。私が心配するのはそれだけですよ」
あーかっこいい。そう、ここだけじゃなくお姉さんとの何気ない会話も良いんですよね。
「父」だけじゃなくて「大人」としての部分を引き出す意味でお姉さんはすごい。
そんな影に支える父も、肝心なときに家を空けてしまいます。
ああこの心細さなんて!!
アオヤマくんとお父さんのロードムービー小説とか書かないかなあ!
(このちょっとかしこいこどもと優しい尊重してくれる大人たちという構図は「ぼくのなつやすみ」的であり、こっちも大好きです)
はい、えー、なんだ。
まだアオヤマくん周辺書いてない。
アオヤマくんは非常にかしこい小学生ですが、周りもちゃんとかしこい。
ウチダくんも、ちょっと控えめだけどちゃんとかしこい。ブラックホールや死など、不安と戦っているになるようなものを見つめ研究している姿にはアオヤマくんより共感しやすいかもね。恥ずかしくてノート隠すところとか。
そして、なによりもですよ?
おっぱいのことを考え公言してしまうアオヤマくんを諭すことができるのです!!かしこい!!
プロジェクト・アマゾンは<海>研究より好きだったりします。
ハマモトさんもかしこいですよね。
チェス少女!から<海>の綿密な研究と、アオヤマくんの良い好敵手です。大好き!
彼女は3人の中では一番子供、な部分?を使うというか出てくるキャラですね。
お父さんのことを話したり、怒られたり、スズキ君に対する態度だったり。お姉さんを疑ったり。
女性だから、じゃないアオヤマくんとは違う一面があって、好きです。
スズキ君帝国皇帝もですね、最後に見せ場がありましたね。
嫌に見える人間であっても、人は一面だけではなくいろんな面がある。
そんな風に言及されていたのは四畳半の城ヶ崎先輩でしたっけ。
金閣・銀閣もそうですね。スズキくんはこっちよりかな?
ただし、おしっこかけるのはやりすぎだゾ。
はい。
ストーリーの雰囲気について。
夏休み独特の熱気と気持ちよさに満ちているんですが、ところどころで不安、であったり恐怖、であったり、そういう雰囲気が流れて、ちょっとだけホラーっぽいです。
ジャバウォックは不気味だし、お姉さんの不調は本当に不安で悲しいんです…
再読だから結末は知ってるのに、やっぱり何かチクチクと胸が刺されるのです。
そのころ、街にふしぎな噂が流れているのを母が教えてくれた。郵便ポストや自動販売機が消えてしまった話。バス通りにならんでいる街灯のランプがいつの間にか消えていたという話。ほかにも、図鑑にのっていない大きな鳥が高圧鉄塔に何羽もとまっていたという話もあったし、夕暮れに給水塔の上で猿みたいなケモノがおどっているような影を見たという話もあった。夜、白っぽい魚のようなトカゲのようなへんな生き物が集会所の前の路上を歩いているのを見たという話もあった。
ここの猿のくだりが本当に怖くて嫌です…
遠野物語やしっぺい太郎など、猿の話はかなり苦手です…
踊りといえばぬ~べ~のしょうけらも怖かった。
「どうしたんだろう、私」
お姉さんがつぶやいた。両手で顔をおおうようにした。
「へんなことばっかり。真夜中になると、私の家から生き物が森へ出ていく。ぬれていて、ぺたぺた四つん這いになって歩くの。気味の悪いやつよ」
「ジャバウォック?」
「わからない。いつも私は眠ってるから。出ていった気配だけわかるの」
いやー怖い。私に出来るのはがんばってお姉さんを励ますんだ!とアオヤマくんを応援することだけです。
チカレタ。
最後にラストとその後。
ラストはもうしゃーない。です。のです。
受け入れるしかないのですが、でもあんな形で迎えれたのはよかったのです。
でもですね?
このお話でアオヤマくんは何が出来たんだろうと考えました。
アオヤマくんはなしえました。
いろいろな研究を平行で進めて、完成したり解き明かしたり途上だったりします。
アオヤマくんは守りました。
お姉さんとの解明や海辺の街へ行く(はまあややとしておきましょう)約束。
ヤマモトさんとの研究の秘密の約束。
自分自身との約束も。彼は怒らないと決めたので怒りませんでした。ちょっとだけ泣いちゃったけどね。
アオヤマくんは成長しました。
大人になるまで三千八百八十一日から三千と七百四十八日まで。日々アオヤマくんは成長しました。
でも、でも。他にいったい何をすればあの結末は回避できたんだろうか?と考えてしまいます。
アオヤマくんが研究した結果のあれが最善だったとは思いたく、というか。
アオヤマくんは前を向いているのに一人だけ勝手に後ろを向いてしまいます。
アオヤマくんは最後、きっとすごいエネルギーを得ました。ペンギン・エネルギーなんてめじゃないものを。
私もさびしいけれど、それでいいじゃないかと受け入れるようがんばるのです。
なーんてお話はアオヤマくんがお姉さんが好きなまま終わります。が!
アオヤマくんは普通に結婚して欲しいなー。とも思います。ハマモトさんならなお良いけどね!
お姉さんへの気持ちは変わらずとも、それでも愛され受け入れお父さんになるアオヤマくんが見たくあります。
そしてアオヤマくんがあの時のアオヤマくんのお父さんぐらいになったとき、アオヤマくんの息子があの時のアオヤマくんの年頃になったとき。
あのときのままのお姉さんと再会して。
どれだけえらくなったか見当もつかないぐらいすっかり大人になったアオヤマくんだけれど、二人の会話を小説文として表現すると、あの時の日常の一場面をそのまま切り取ったかのようなものになるんじゃないかな。
なんて想像するのです。
ということで、圧倒的五つ星。個人的殿堂入り作品は二度目もたいそうオモチロかった。
この作品は「ぼく」「おっぱい」「ぐんない」で構成されています。とても良い本です。
小説でもアニメでもいいので、大勢に広まるといいなあと思います。
ではでは。ぐんない。