かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

森見登美彦 ペンギン・ハイウェイ 感想

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

セーフ!!
来週映画公開かと思っていたら今週でした!!

はい。
二度目です。

最初はーもう6・7年前かな?
いや単行本で読んだから8年前?

当時はまさかまさか、あの腐れ大学生に年をとらせたような登美彦氏からこんなジュブナイル小説が飛び出るなんて!!!!!
っと驚くとともに、しっかり氏のエッセンスが濃密に行き届いていて。オモチロイ。
一気に登美彦氏の作品の中で一番好きな作品になったのでした。

で、本当に好きな作品特有の現象として大事に封印してきたのですが…
このたび映画化ということで、感想の嵐にさらされる前に、今一度新鮮な気持ちのうちに読み直そうとあいなりました。

氏は氏の作品を子供として扱ってますが、まさに子供のアオヤマくんが主人公の今作。
とにもかくにも彼が大好きなのです。

アオヤマくんはかしこい。しかも私が好きなかしこさだ。
子供がかしこい・天才というと、江戸川さんちのコナンくんみたいなのを想像しちゃいますが、
「子供なのに大人のように考える」子供はあまり好きではありません。
アオヤマくんは「彼が彼自身の努力によって得られる知識と想像力で物事をよく考える」のです。
子供らしいかしこさ。
あああああ
こんな説明じゃ1%も伝わらないのでもどかしい。
アオヤマくんは知らないことを知っているし、想像で補うことができるうえに想像であるということをことわれるし。
うううううううう
そして何よりおっぱいなんです。
いかん、言語化できない。
アオヤマくんの客観視っぷりはすさまじくて、でもそれはアオヤマくんが天才だからじゃなくて、
アオヤマくんのお父さんに習ってノートをちゃんととったりする積み重ねがあるからで、
一方でおおらかなお母さんの愛もあって、
ただ勉強できるだけじゃなくて、相手の側に立って考えてみることもできるし、相手を尊重できるし、
どんなにそのときの気持ちをノートに書いても、読み返したときに本当に同じ気持ちにはなれないと知ったし…
おっぱいが好きだしお姉さんが好きだし夜更かしはできないし…

いったい何を言えば良いんだ!読書ノートでも取っておけばよかった!

そんな、とにかく、純真すぎるぐらい純真でかしこいアオヤマくんなんですが、それでもこれは登美彦氏なんだなあと感じるんです。
登美彦氏のなんだか純真な部分がぽんと飛び出たような。
氏の子供の頃では決して無いけれど、氏の子供の部分、みたいな?
現実味があるリアルな子供描写ではないんですけど、何か懐かしいような、読んでいるとぽわぽわぴゅあぴゅあな気持ちになるのです。

そして対になるようにアオヤマくんのお父さんがいてですね。
彼はアオヤマくんに考え方を教えるんですよね。夜にはカフェに迎えにいったり、二人でドライブしたりもします。
お父さんは直接答えを出そうとはしないし、アオヤマくんもまた直接質問はしません。
二人は考える。考える。
そんな、アオヤマくんが行き詰ったときにちょっとだけ手助けをしたり、いい刺激を与え続けるお父さんは、
彼があってアオヤマくんがあるんだなと思わせるようなかっこいい人なのです。
あとこれは勝手な妄想なんですが、彼を映像化するときは顔(とくに目)を写さない感じが似合うと思っています。
脳内映像も常に影が射すか鼻下までのカメラワークでした。アオヤマくんが子供だから自然と脳内視点も低くなっているのも影響かな?
それ町」の嵐山夫妻的なアレでどうでしょうか?
(このイメージも映像化見たくない理由だったり)
えーっと…それで、彼もまた、登美彦氏です。
登美彦氏の大人な部分だと思っています。放任、というと言葉が悪いですか。
見守りのその目線が、登美彦氏が自分の作品を語っているときのような温かみあふれ満ち溢れるものなのです。愛だよ愛。

「私は平気ですけど。お父さん、心配になることありません?」
「もちろんいつも心配していますよ。しかし、もうそんなことはあたりまえになってしまって、心配らしい心配とも言えないな。そういえば、息子は今、手強い問題をかかえているそうです」
「知ってます」
「でも、世界には解決しないほうがいい問題もある」
「そうかしら?」
「もし息子が取り組んでいるのがそういう問題であったら、息子はたいへん傷つくことになる。私が心配するのはそれだけですよ」

あーかっこいい。そう、ここだけじゃなくお姉さんとの何気ない会話も良いんですよね。
「父」だけじゃなくて「大人」としての部分を引き出す意味でお姉さんはすごい。
そんな影に支える父も、肝心なときに家を空けてしまいます。
ああこの心細さなんて!!

アオヤマくんとお父さんのロードムービー小説とか書かないかなあ!

(このちょっとかしこいこどもと優しい尊重してくれる大人たちという構図は「ぼくのなつやすみ」的であり、こっちも大好きです)


はい、えー、なんだ。
まだアオヤマくん周辺書いてない。
アオヤマくんは非常にかしこい小学生ですが、周りもちゃんとかしこい。
ウチダくんも、ちょっと控えめだけどちゃんとかしこい。ブラックホールや死など、不安と戦っているになるようなものを見つめ研究している姿にはアオヤマくんより共感しやすいかもね。恥ずかしくてノート隠すところとか。
そして、なによりもですよ?
おっぱいのことを考え公言してしまうアオヤマくんを諭すことができるのです!!かしこい!!
プロジェクト・アマゾンは<海>研究より好きだったりします。

ハマモトさんもかしこいですよね。
チェス少女!から<海>の綿密な研究と、アオヤマくんの良い好敵手です。大好き!
彼女は3人の中では一番子供、な部分?を使うというか出てくるキャラですね。
お父さんのことを話したり、怒られたり、スズキ君に対する態度だったり。お姉さんを疑ったり。
女性だから、じゃないアオヤマくんとは違う一面があって、好きです。

スズキ君帝国皇帝もですね、最後に見せ場がありましたね。
嫌に見える人間であっても、人は一面だけではなくいろんな面がある。
そんな風に言及されていたのは四畳半の城ヶ崎先輩でしたっけ。
金閣銀閣もそうですね。スズキくんはこっちよりかな?

ただし、おしっこかけるのはやりすぎだゾ。


はい。
ストーリーの雰囲気について。
夏休み独特の熱気と気持ちよさに満ちているんですが、ところどころで不安、であったり恐怖、であったり、そういう雰囲気が流れて、ちょっとだけホラーっぽいです。
ジャバウォックは不気味だし、お姉さんの不調は本当に不安で悲しいんです…
再読だから結末は知ってるのに、やっぱり何かチクチクと胸が刺されるのです。

 そのころ、街にふしぎな噂が流れているのを母が教えてくれた。郵便ポストや自動販売機が消えてしまった話。バス通りにならんでいる街灯のランプがいつの間にか消えていたという話。ほかにも、図鑑にのっていない大きな鳥が高圧鉄塔に何羽もとまっていたという話もあったし、夕暮れに給水塔の上で猿みたいなケモノがおどっているような影を見たという話もあった。夜、白っぽい魚のようなトカゲのようなへんな生き物が集会所の前の路上を歩いているのを見たという話もあった。

ここの猿のくだりが本当に怖くて嫌です…
遠野物語やしっぺい太郎など、猿の話はかなり苦手です…
踊りといえばぬ~べ~のしょうけらも怖かった。

「どうしたんだろう、私」
 お姉さんがつぶやいた。両手で顔をおおうようにした。
「へんなことばっかり。真夜中になると、私の家から生き物が森へ出ていく。ぬれていて、ぺたぺた四つん這いになって歩くの。気味の悪いやつよ」
「ジャバウォック?」
「わからない。いつも私は眠ってるから。出ていった気配だけわかるの」

いやー怖い。私に出来るのはがんばってお姉さんを励ますんだ!とアオヤマくんを応援することだけです。


チカレタ。
最後にラストとその後。
ラストはもうしゃーない。です。のです。
受け入れるしかないのですが、でもあんな形で迎えれたのはよかったのです。

でもですね?
このお話でアオヤマくんは何が出来たんだろうと考えました。

アオヤマくんはなしえました。
いろいろな研究を平行で進めて、完成したり解き明かしたり途上だったりします。

アオヤマくんは守りました。
お姉さんとの解明や海辺の街へ行く(はまあややとしておきましょう)約束。
ヤマモトさんとの研究の秘密の約束。
自分自身との約束も。彼は怒らないと決めたので怒りませんでした。ちょっとだけ泣いちゃったけどね。

アオヤマくんは成長しました。
大人になるまで三千八百八十一日から三千と七百四十八日まで。日々アオヤマくんは成長しました。

でも、でも。他にいったい何をすればあの結末は回避できたんだろうか?と考えてしまいます。
アオヤマくんが研究した結果のあれが最善だったとは思いたく、というか。
アオヤマくんは前を向いているのに一人だけ勝手に後ろを向いてしまいます。

アオヤマくんは最後、きっとすごいエネルギーを得ました。ペンギン・エネルギーなんてめじゃないものを。
私もさびしいけれど、それでいいじゃないかと受け入れるようがんばるのです。


なーんてお話はアオヤマくんがお姉さんが好きなまま終わります。が!
アオヤマくんは普通に結婚して欲しいなー。とも思います。ハマモトさんならなお良いけどね!
お姉さんへの気持ちは変わらずとも、それでも愛され受け入れお父さんになるアオヤマくんが見たくあります。
そしてアオヤマくんがあの時のアオヤマくんのお父さんぐらいになったとき、アオヤマくんの息子があの時のアオヤマくんの年頃になったとき。
あのときのままのお姉さんと再会して。
どれだけえらくなったか見当もつかないぐらいすっかり大人になったアオヤマくんだけれど、二人の会話を小説文として表現すると、あの時の日常の一場面をそのまま切り取ったかのようなものになるんじゃないかな。
なんて想像するのです。


ということで、圧倒的五つ星。個人的殿堂入り作品は二度目もたいそうオモチロかった。
この作品は「ぼく」「おっぱい」「ぐんない」で構成されています。とても良い本です。
小説でもアニメでもいいので、大勢に広まるといいなあと思います。

ではでは。ぐんない。

佐藤大輔 皇国の守護者 09 皇旗はためくもとで 感想

はぁ~…
あのさぁ…

蓮乃さんの新城への支離滅裂な言動や振る舞いも、保胤への一種の裏切りでもある新城へのお気持ちも。
全部ひっくるめて彼女の出来た人の良さが何とか手綱をぎゅっと握ってつなぎとめて彼女を良人せしめていたわけですよ。
つまりは自制できていたってところが重要なんですが、開幕あの始末ですよ。
最大の矛盾にして問題点ですよね。
新城は…まあ…自分を騙し通したと見ればまだなんとかですが、蓮乃はすべて諒解済みですからね。
一気に好感度が地の果てにまで堕ちて最期も悲しむ気持ちが一切わきませんでしたよ。
再読となると覚悟は出来ていたんですが、忘れていたということも相まって一度の誤りというわけでもないところが最高にBAD。
ストーリー上の役割としては重要な彼女ではありました。
彼女と新城の出会いが物語の大きな転機で、別れもまた大きな転機になりえたんでしょうね。たぶん。

思えば男くさいこの話も、女性はなかなかにターニングポイントでした。
まず蓮乃がそうであるし。しみじみ一巻冒頭を開くと麗子もそうなったのでしょう。
佐脇くんの致命傷は婚約者でしたし。
草浪道鉦の心の楔は長康でありましたが、逆鱗は妻の明野でした。
守原が明野の扱いを誤らなければ、少なくともあのような最後の行動には走らなそうな人物でした。
そもそもここまでの苦境に立ったのはユーリアですし、ユーリアの女性性は帝国でも人々を動かしてきました。

両性具有者も作中ではほぼ女性として書かれていましたし、
彼らは女性の絶対的な忠誠面を書きたかったのかしらん?
よく出る蓮乃もユーリアも皇国一般的な女性の振る舞いではなかったでしょうし。
単純に戦場に女性を持ち込む。だとか、将官の尻を女に掘らせたかっただけのような気もしますが。

とかく、主人公として英雄色を好ませようという読者サービスな面もありましたが、なかなかどうして語るに女性が外せない作品ではありました。
そうそう、千早も女性です。一番母性母性していました。

さて、内乱は。
空挺!後方装填式!と、溜まったフラストレーションを発散させてくれる程度にはスカッでした。
敵が短銃・鋭剣の将校たちというのはやや相手に不足ですが、そこは逆転を狙った近衛奇襲なのでヨシ。
新城の最終パーティーは同期生+個人副官+帝国将校+帝国皇族+龍族というヘンテコなものになりました。
この感じ、ハガレンの最終決戦を思い出しますね。あっちよりかはすごい豪華なメンバーですけど。これで近衛だというのだから諧謔の笑みのひとつも失笑してしまいます。

しかし、同期生。
この巻が始まりではないですが、彼らは全員が戦争を愉しんでいるのですよねえ。
新城自体は戦争を手段として扱う男だと思っているのですが、彼が信を置いている(しかも現役を離れていた!)彼らのこの愉悦のことをどう思っているのか。
これはかなり気になる部分でした。
単純に見ると新城はそれを唾棄すべきものとして扱うような気もするのですが…
内心はどうあれ良い将校としてふるまっていればOKそうかも。
なにしろ新城自体が内心は小心ここに極まれる自嘲自罰の人なので…。
許しはしそう。でも好むのかは謎です。
壮大なプロローグが終わり、ガーダーとしての活動が増えればそこらへんも描写されたのでしょうか…


ということで本作は終わりなのですが。
はい、壮大なプロローグでした。

湾岸戦から内乱まで、正直北領戦の出来を超えないんですよね。
全編面白くて、こうやって再読でも楽しんで読み終えることはできたのですけれど。
北領撤退戦が完璧すぎた。
漫画版が続いて欲しかったという話はちょいちょい見ますが、あそこで終わった良かったのかもと読み終わるたびに思います。
私も漫画版から入りましたが、原作を読み進めるとだんだんと既存キャラであっても伊藤さんのキャラデザが抜けていくんですよねー。(猪口除く)
だから、漫画版はあれでひとつの正解だったと思います。

原作については続いて欲しかった!!
剣牙虎!導術による優越!翼竜運用の発展!もっと見たかった…。
戦記ものは全然読まないのですが、今のところ一番好きなのです。
似たような作品が知りたい。
常にままならなさを描き、大勢も常に負けているものの面白いこの作品は貴重なんじゃないかなあと思います。
北領戦を超えられないといいながら、読み出すとまた最後まで読んでしまうような気がしていますし。

未完だけれど、許せる面白さがこの作品にはあるのです。

佐藤大輔 皇国の守護者 08 楽園の凶器 感想

サクサクー

事変開始です。
この事変はもろもろの株が下がる巻でもあります。

まず丸枝くん。
最初は純朴な新米士官だったのが、皇都に戻るとちょっと歴戦風をかもし出すハシカ士官かつ新城の信者となって…
この巻ではかなり俗っぽい面を見せます。出世欲の原動力が個人副官だったり。
前巻までもどちらも凡人そうといえばそうですが。これも人間か。
草浪も前巻で愛妻家を見せ付けたと思ったら、それが守原への復讐心まで昇華されうるとは思ってもいませんでした。
まあ単純な恨みのみでの裏切りではないですし、そもそも裏切りと言えたほど計画自体は裏切っているわけではないのですが…
そこがまたずるいところですね。

新城も姉(あに)まで抱く必要は…というのはどちらかというとストーリー(作者)への評価落ちでしょうか。
皇室のお立場も分かりますが、抱かせたくて抱かせた感があります。
また、篤胤のエピソードとして小児性愛の二次創作への表現の自由を持ち出すのは、作者の属性も合い合わさって強く、
メタとしての現実を意識させられて好きじゃあなかったです。

逆に佐脇くんは同情大でした。
守原に内通していたのは佐脇くんだけだと思ってたんですが、一族丸ごとだったんですねー。
そしてすべてを佐脇くんひとりにおっかぶせた。と。
彼の一番の不幸は弟が居たことでしょうか…描写はぜんぜんありませんが、たぶん兄に似て優秀な男なんだと思います。小奇麗にまとまった俊兼をひとまわり小さくした弟。と想像しております。
彼が居たから廃嫡できたわけで…
好きではないですけど、哀れですね。

軍備に関しては特記するようなこともなく。
空挺の伏線を張る程度ですか?
ものすごく退屈なわけではないのですが、皇都編はとくに書くことが無くて、人物中心になっちゃいますねえ。
他方、海軍は常に風通しがよくて清涼剤になります。

出来としては前二巻と同じですが、今回はちょっと作者が垣間見えちゃって評価下。
ただ珍しく千早目線が書かれたのは加点でしょうか?
長かった準備編も終わり、ようやっと、しかし終わりの次巻へ続きます。

佐藤大輔 皇国の守護者 07 愛国者どもの宴 感想

もう9巻まで読みきっちゃったのでサクサクいきますよー

相変わらず準備編なのです。
この巻でも大体草浪さんが主人公しています。
あんな彼なのに、だから、あの夫婦仲は良いものがあります。
あとは…なにかあったかな…
501の素行の悪や後任との軋轢は後々のためのポーズだと思っとりました。思っとりました…

…うん、あんまり言うことが無い巻でして。
新城は出るけれどあまり主役感はないのです。
草薙、丸枝、篤胤、あたりがひっそり株を上げる巻でした。

佐藤大輔 皇国の守護者 06 逆賊死すべし 感想

虎城戦新城指揮から一応の終戦まで。
六芒郭よりらしく満足感ある陣地戦ですね。
11大隊の壊滅も含めてね。
鉄量あるのみというのは本当で、もし当初通り後方の支援があったらどうなってたんでしょうか。
それが組織の硬直はあるものの保胤様の体調不良が始まりという悲しみ。
本当、佐脇君はただ劣等感あふれるキャラなら手放しに同情できるんですけどね…
守原の手の内ってこの巻で判明したんでしたっけ?
草浪さんはそれでも好きなんですけど、佐脇君はこの後のあれが派閥関係なくNG。
今回の愉しい愉しい手討が未遂に終わってしまったことが物語最大の事象節だと思います。(事象節って胎界主の造語っぽいですね)


今回の戦は新城がかなり孤独でしたね。
思えば今までは猪口や個人副官が居て、敵にもメレンティンやユーリアが居て。
少なからず新城のことを分かっている人が居たのですが、今回は誰もおらず。
いわんや千早をや。
ミンスキィは新城という障害物を正しく評価できているという感じで、
バルクホルンは新城が嫌いそうな信奉者っぽいんですよね。
だから、今回は孤独。

野々川導術兵への態度にも、自嘲を見せる相手が居ないのです。

まあ、だから、坂東万歳と言いたくなるのです。
わき道ですが、龍族の扱いがすごいですよね。物語として頑なに参加させないんですから。
坂東さんも今回は龍兵一人。前戦では観戦武官として数人「巻き殺し」ただけですからね。

龍族の一転攻勢が構成としてもしあったのならば、見たかったですね…。


新城がほぼ矢面に立たない代わり、帝国の砲兵や駒州軍の指揮官など個人の描写もたっぷりあってうれしい。
新城という劇薬があるのに、こういったところにスポットを当てて泥臭い戦が読めるのはバランスも取れてすごい好きです。
望遠鏡越しの逃避。結果として生き残れてることとか良いのです。


これで確か帝国との戦いは一応終わり。だったような。
かなりさびしいですが、損害を一顧だにしない頑健な(今回は士気崩壊してましたが)軍隊の強さをしっかと見せてくれて。
惜しいですがご退場。
これからは政治の季節なのです。

佐藤大輔 皇国の守護者 05 英雄たるの代価 感想

男小説。

海戦での大勝。
両手に愛人。
順調な昇進に…臨時とはいえ一軍を率いるまで。

新城の動きはあまり多くないのですが、代わりというか喜びそうなものをたくさん入れ込んでいます。
二人が自らチークをつけるのはやりすぎ…好きですけど…。

新城がおとなしい間、動きは準主役?の草浪と佐脇が担当します。
虎城戦は今までと異なって(冬の間は)比較的安心して読めます。
佐脇も(無難で)優秀な指揮官として、少なくない好感を抱ける指揮をするんですよね。私情込みですけど。
まあ順当に優秀に戦っていくと最終的に負けるという悲壮感はありますが。

対ユーリア戦と打って変わってねっとりとした冬季抗戦。
政治の季節と合わさって好きなのです。

ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 短編集 たったひとつの冴えたやりかた 感想

面白い!!
こういう本にたまに当たれるからSFは好き。
超有名作?に恥じない面白さでした。

パロディ・日常使いの取り回しのよい言葉という意味で「たったひとつの冴えたやりかた」を言葉として知っていたんですが、
名前勝ちにならない内容の良さでしたね。やりかたも思ってたんとちがう。かったですし。

物語は、人類の活動圏の辺境。星々がぐっと減る「逆天の川」のような「リフト」を舞台にした短編3つ。
タイトルは原題のThe Starry Riftのほうがまとまってて好き。

たったひとつの冴えたやりかた

少女の冒険劇から、地球外生命体との友情を描いた作品。
正直、最初にコーティーが宇宙に出てイーアと出会うまでは結構退屈でした。
人類が宇宙に進出した時代の説明や、宇宙航海方法みたいなものを説明するかのような出発・家出シーンですね。
振り返ればそこのおかげで後の物語が読み込みやすくなっているんですが、チャート組んだりするところは脱落しかけました。

シロベーンが出てからは、本当にファーストコンタクトモノ、純真な友情冒険活劇としてとても面白かったです。
寄生型の定めとしてシロベーンがいつ裏切るか終盤まで内心ハラハラしながら読んでいたのですが…
まさかあんな結末になるとは…
コーティーの真の勇気と、シロベーンの理性、二人の友情に胸が痛みます。
たったひとつの冴えたやりかた。誰や何にとって、といったものが欠落したタイトルは読む前より好きになりました。

ちなみにドロンはcyriakの猫のようなものをイメージしました。

あとこれを言うと台無しですが…寄生獣

グッドナイト、スイートハーツ

若い活力を感じた一本目から大きく転じた作品に、著者の手広さ?何でも書けそうな力量、多彩さを垣間見ました。

すごい詰め込んでますねー。
一匹狼の男がイナセに自由に生きている風体で始まり、
過去の恋人との再会。ただしコールドスリープの影響で彼女のみ年をとるものの、美容整形で形は保ってはいる。
そしてさらにそこに彼女のクローンが…。
思い出を持つ歪な彼女と当時の面影を持つクローンの彼女とで気持ちが揺れ動くメロドラマっぽい展開から二者択一の選択へ…
を見事な機転で切り抜けると、今度は独りの自由や歴史的発見と彼女たちと共にある人生かという悩みへ…。
そこでさらに選択が起こるのか!
自由と女、両方の幸福でゆれる男が悩ましい。自分ならどっちを取るかな?難しい…

SFだから起こるコールドスリープによる人々との年齢差やクローン、燃料・航路など、男女の話にとどまらないSFとして面白かったのです。

あと印象的なのが、「老い」を気にしない彼女ですね。
作中の、あるいはそれまでの彼女の気持ちは推し量りきれませんが、作中で彼女は年齢を理由に僻んだり拗ねることはほとんど無いですし、
むしろ若いクローンを生かすよう男に迫りすらします。
あの世界では実はたいした問題ではない年齢なのかもしれませんが…

これはあとがきを読んでからの印象ですが、老いへの作者の何かがにじみ出ているような、あとから印象アップしたキャラクターでした。

衝突

ファーストコンタクトモノだヤッター!
お互いがカタコトでしゃべる展開は好きなので、それだけで面白かったです。
邂逅までのお互いの種族の話が交互に展開されるのも、どうなるのかという期待が煽られてよかったです。
交渉自体は上手く運ばないのですが…全員の懸命な事態のなかで威厳を剥ぎ取られた単語コミュニケーションが進行するのは良いです。

あと、たったひとつの冴えたやりかたでも思ったのですが、メッセージパイプによる事後の記録を聞く。聞くことしかできない。というシチュエーションがわりと好きでした。

あとがき

作者の年齢や性別や出来事や。
これだけでなんか掌編のような衝撃的内容でした。
ある意味遺作ということは…これを書いたときの年齢は…
すごいですねえ。。


翻訳独自のぎっしり感、サイエンス的な解説のもっさり感はやはりあるものの、文体は比較的読みやすいです。
話の内容も核の部分は分かりやすい、馴染みあるものなので難解といったものとは無縁でしょう。
SFの賞を取るほどの出来なのかはわからないのですが、賞を取ったからといってカタブツな作品ではないので、オススメです。
3編どれも面白かったのですが、手が伸びにくいならやっぱり「たったひとつの冴えたやりかた」だけ読むのでもいいかな?