かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

貴志祐介 新世界より 感想

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いやー面白かった!!
久しぶりに他の時間を削って本を読み進めました!
ホラーの人だと敬遠していたのですが、すごいSF。面白い!

木曜日に読み始めて、金曜夜に図書館で惹き込まれ、土日費やしたらもうこんなにページ読んでる!?って。ペース新記録かも。

ホラー避けしていた他の作品も読もうかな?

この作品は一応アニメになったことは知っていて、醜悪な生き物が人間、あるいは人間性を主張して嘲笑されるってことだけは知っていました。
でもほぼ前提知識無しで読めてすごく良かった。アニメも気になる!!

前提知識なくて、タイトルからどこに着地するのか全然わからなくて、読んでいて本当にハラハラ。
幼少期の管理された世界を新世界へ塗り替えるのか。主人公は革命の御旗になるのか。はたまた裏切ってバケネズミの側についてバケネズミの新世界たるのか…
一応、後年の述懐形式だけれど、本当に先が読めなかった。

展開の読めなさに加えて設定の秀逸さがいいですよね。業魔悪鬼(フォックス・イン・ザ・ヘンハウス!)に猫ちゃん。全員が超能力持ちな中人間世界でも不穏な空気が流れて落ち着く暇がない。
ついでに言えば、主人公たちは社会に対して負け通しというのもきっついものがありました。すべてたなごころの上で、警戒してたのに記憶操作されまくりって…。

バケネズミのオチに関しては、ある程度予想はできちゃったかな?
旧世界の呪力持ちと非呪力持ちはそのまま今のバケネズミとの関係ですし。
でもそれでも最後の最後でも人と認識しなかったこと。ついでその能力関係が悪鬼によってひっくり返っているというのは「攻撃抑制」「愧死機構」の設定がとても面白かった。

でもちょっと殺意判定が謎ですよねー。
薬などで精神をごまかすのはだめでも不浄猫やバケネズミに依頼するのはOKっぽいですし。毒薬渡すのもOK。最終兵器も最初、殺意感じることなく殺せるって触れ込みだったような?だからボタン一つのミサイル的なものだと思ってました。あれとはねw。

もひとつ能力関係でいうと、信じない人が観測することで能力が発現しないっていうのもありそうですが面白いですね。信じない人に見せてみろって言われても見せれない。どうやってうまく観測されるかという過程も面白そうな題材かも。
結果としては円環少女の悪鬼みたいな感じですかね。

良くなかった点としては、ホラー畑だから?
途中途中でその後の悲劇を度々ほのめかすことがちょっとウザったかったです。
しかも起きたことって驚天動地というわけではなく、結果的(ほんとうに結果だけなら)には死人が多く出た事件・事故レベルだったわけで…
主人公が関与しなくてもあの規模の事件は起こせそうですし、バケネズミの文明の発達スピードとかみても、遠からずメシアを手に入れることもできそうな気がします。メシアが無くてもテロ的な向こう見ずにならあれぐらい出来そうですよね。
起きたあとも被害はまあ人死にとバケネズミの激減ぐらいで。人といっても一区域?レベルで人類に手痛い打撃ってわけでもないんですよね。

そこでタイトルに戻るんですけど、物語のスタート時点が「新世界」であって、作中で人がたくさん死んだ何某かが起こって新世界になったわけではないんですよねー。
「より」ってことで書いてる主人公の今が新世界かと思っていたのですが、どうやら読者から見ての新世界のようでした。
ドボルザークのあれは確か望郷的意味があった気がしたんですが、あの世界は旧世界を惜しんではないのでそこもミスリードというか肩透かし。(強いてあげればすべてを優しく隠された幼少期が望郷対象ですか)
メシアからの東京探になるとこれが締めなのか…とちょっとだけ落胆したかな…。ディスい人間社会は変わらないわけですし。
あ!奇狼丸はすごい、最後まで油断させない東京編のエッセンスですよね!!しかもかっこいい!!クライマックスの!!

…まー!毎度のごとくマイナス点ばかりあげつらっていますが、本当、揺籃の中を切なく描いた幼少期編も、バケネズミとの冒険編も、大人になってからの強さと忘れたことを覚えている葛藤を描いた部分も、全部全部好きです。
たぶんもう一回最初から読むとまた感慨深い味わいが出そうな、本当、面白い。好きな本。

文句なしの星5で、この本が貴志祐介の最初の一冊で良かったと思えるお話でした。

図書館ちゃんの保身も好き好き。