かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 短編集 たったひとつの冴えたやりかた 感想

面白い!!
こういう本にたまに当たれるからSFは好き。
超有名作?に恥じない面白さでした。

パロディ・日常使いの取り回しのよい言葉という意味で「たったひとつの冴えたやりかた」を言葉として知っていたんですが、
名前勝ちにならない内容の良さでしたね。やりかたも思ってたんとちがう。かったですし。

物語は、人類の活動圏の辺境。星々がぐっと減る「逆天の川」のような「リフト」を舞台にした短編3つ。
タイトルは原題のThe Starry Riftのほうがまとまってて好き。

たったひとつの冴えたやりかた

少女の冒険劇から、地球外生命体との友情を描いた作品。
正直、最初にコーティーが宇宙に出てイーアと出会うまでは結構退屈でした。
人類が宇宙に進出した時代の説明や、宇宙航海方法みたいなものを説明するかのような出発・家出シーンですね。
振り返ればそこのおかげで後の物語が読み込みやすくなっているんですが、チャート組んだりするところは脱落しかけました。

シロベーンが出てからは、本当にファーストコンタクトモノ、純真な友情冒険活劇としてとても面白かったです。
寄生型の定めとしてシロベーンがいつ裏切るか終盤まで内心ハラハラしながら読んでいたのですが…
まさかあんな結末になるとは…
コーティーの真の勇気と、シロベーンの理性、二人の友情に胸が痛みます。
たったひとつの冴えたやりかた。誰や何にとって、といったものが欠落したタイトルは読む前より好きになりました。

ちなみにドロンはcyriakの猫のようなものをイメージしました。

あとこれを言うと台無しですが…寄生獣

グッドナイト、スイートハーツ

若い活力を感じた一本目から大きく転じた作品に、著者の手広さ?何でも書けそうな力量、多彩さを垣間見ました。

すごい詰め込んでますねー。
一匹狼の男がイナセに自由に生きている風体で始まり、
過去の恋人との再会。ただしコールドスリープの影響で彼女のみ年をとるものの、美容整形で形は保ってはいる。
そしてさらにそこに彼女のクローンが…。
思い出を持つ歪な彼女と当時の面影を持つクローンの彼女とで気持ちが揺れ動くメロドラマっぽい展開から二者択一の選択へ…
を見事な機転で切り抜けると、今度は独りの自由や歴史的発見と彼女たちと共にある人生かという悩みへ…。
そこでさらに選択が起こるのか!
自由と女、両方の幸福でゆれる男が悩ましい。自分ならどっちを取るかな?難しい…

SFだから起こるコールドスリープによる人々との年齢差やクローン、燃料・航路など、男女の話にとどまらないSFとして面白かったのです。

あと印象的なのが、「老い」を気にしない彼女ですね。
作中の、あるいはそれまでの彼女の気持ちは推し量りきれませんが、作中で彼女は年齢を理由に僻んだり拗ねることはほとんど無いですし、
むしろ若いクローンを生かすよう男に迫りすらします。
あの世界では実はたいした問題ではない年齢なのかもしれませんが…

これはあとがきを読んでからの印象ですが、老いへの作者の何かがにじみ出ているような、あとから印象アップしたキャラクターでした。

衝突

ファーストコンタクトモノだヤッター!
お互いがカタコトでしゃべる展開は好きなので、それだけで面白かったです。
邂逅までのお互いの種族の話が交互に展開されるのも、どうなるのかという期待が煽られてよかったです。
交渉自体は上手く運ばないのですが…全員の懸命な事態のなかで威厳を剥ぎ取られた単語コミュニケーションが進行するのは良いです。

あと、たったひとつの冴えたやりかたでも思ったのですが、メッセージパイプによる事後の記録を聞く。聞くことしかできない。というシチュエーションがわりと好きでした。

あとがき

作者の年齢や性別や出来事や。
これだけでなんか掌編のような衝撃的内容でした。
ある意味遺作ということは…これを書いたときの年齢は…
すごいですねえ。。


翻訳独自のぎっしり感、サイエンス的な解説のもっさり感はやはりあるものの、文体は比較的読みやすいです。
話の内容も核の部分は分かりやすい、馴染みあるものなので難解といったものとは無縁でしょう。
SFの賞を取るほどの出来なのかはわからないのですが、賞を取ったからといってカタブツな作品ではないので、オススメです。
3編どれも面白かったのですが、手が伸びにくいならやっぱり「たったひとつの冴えたやりかた」だけ読むのでもいいかな?