かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

終末のフール 感想

再読です。

伊坂幸太郎自体ものすごく久しぶりですね。
リハビリがてら。
当時の記憶はほぼなくて、覚えていたのが「ヨールは無理がある」だけでした。

作品全部読んだわけでもないのですが、重力ピエロの受賞宣伝につられて単行本を手にとってから、一時ぽつぽつと読んでいました。

今回初めて言語化しますけれど、伊坂作品はなんだろう…
静謐というか、牧歌的な筆致ですごく怖いとか力強いとか、意志を感じる文章を書く人なイメージです。
トゲトゲの雲丹をふわふわな雲で包むんだけど、触ってみればすぐトゲが手にあたる感じ。

また、娯楽的?面白い小説でありますが、ラノベの域には全然踏み込まないので、読むのがつらかったりもします。
ゴールデンスランバー序盤でギブアップしたりね。

終末のフールに戻すと、そんな風に感じている伊坂作品のなかで自分のイメージに合致しやすい舞台が提供されています。

8年後の世界の終わりが予告され5年。
世間のひどい荒れは小康を向かえ、末期の破滅的な狂乱もない、されどまだ人を見て安心できない世界が舞台です。
そもそも本当に小惑星がぶつかるのかも正確とは言えない。
まあ落ちるんでしょうけど。不確かさで人心を惑わされる人々とかね。

終末のフール

伊坂節?がすんなり再認識できたお話。
読み返すと状況説明の1話で、話自体は強い娘と愚かな父と、あと可愛強かなお母さんのわりとストレートな会話劇?
娘のまっとうな指摘にやり込められる父親の姿を読んですっきりする…という風に微塵も受け取れさせない感じが好き。
なんせ、

弱さや不器用さが自分からう受け継がれたということを認めたくなくて、「たまたまできた失敗作」と思い込みたかったのかもしれない。

という独白自体が最高にクールでフールで、なんとなくわかって、好きではないけど憎みきれないんですよね。父親。

太陽のシール

かなり好き。
正反対の夫婦の竹を割ったかのような奥さんがまず好きでしょ。
続いて草サッカーが大好き。
大の大人がわいわいわい…へとへと…。
大人が能天気?にバカする話は結構好きなんですが、太陽が降り注ぐ中となると、
夏休みな大学生か、ダメ人間ばかりのアパート的状態になっちゃうので、(100%入間人間イメージ構成)大手を振ってこんなんできる終末最高!
そしてなんといってもラストのオチ。
かーらーのー富士夫くんのセリフ。
やっぱりこういう笑顔がこぼれちゃう話は楽しい。

また、土屋くんの話も真摯な話で、共感できすぎてやばい。
終末のフールでちらと感じた、親の責任じゃないことの証明の第二子みたいな、聲の形みたいな、そんな暗い裏テーマでもあるのかなと邪推した。
でも、それでも陰惨にならなくて、土屋くんの力強さはビンビンに感じて、日差しが強い物語だった。

篭城のビール

我らが隣人の犯罪をぼんやり思い出しながら読んでいた作品。なんでだろ。
忘れていたのでおいおいマスコミ最低話かよと素直に読んでいたら、スープ飲もうとしたシーンで記憶がよみがえりぐるっと読み味が変わって、再読故の読み方をしたなーという感想ですはい。

オチの前振りが逆算、あからさまで、ふふっ。

冬眠のガール

5年って、案外長いよね。高校生がもう20代前半なんですから。

主人公の優しいフィルターで今の世界を写す話。
同時にドラマティックな話で、ふわふわとした浮遊感を覚えるのに、人の争いや死んだ話が随所に出てくる、トゲトゲした自分としては「らしい」作品です。

この話は主人公より小松崎先生が大好き。

鋼鉄のウール

うーん…ほぼノーコメント。
あんまり好きな話じゃないです。
ただたんにスポーツマンがあまり好きじゃないからかもしれません。

天体のヨール

でましたヨールヨール。
ここまででやや記憶がよみがえって、二ノ宮の歳が不明な感じが好きだったなと思ってました。
読み返すと、二ノ宮のキャラと、矢部君の今と昔を重ね合わせるような描写がいい…。
これも親や妻が死んで、それが重要なファクターになるのに、二人の口から出る言葉には悲しみよりも面白さや味わいを見出します。
40台のなせる業か、ラストはとどまると思いきや軽やかに飛び去る感じのシメで、されどそれもまた良しって思っちゃう二人の邂逅でした。

小惑星が落ちるのが日中か夜かなんて全然考えてなかったなあ…
なんとなく穏やかな日中イメージしてましたけど。そうか、夜がええんか。

演劇のオール

ウールから薄々、こいつ無理やりールひり出してやがんな?という疑惑を深めるようなオールへの前振り。
そしてそれを振り払う圧倒的転々オールオッケー感。

やっぱりストレートな転結ハッピーエンドは好き!

深海のポール

奇特な人な雰囲気を振りまいていて好きだった渡部さん。
彼が主人公の最終話…。
なんですが、彼が悪くない意味で陳腐になる話でした。たぶんごく個人的に。
ちょっと変で、こんな時節にレンタルビデオなんて営む一人称僕の渡部さんが好きでしたが、一人称では私という結構なリアリストというか大人で、夫で、息子で。
存外普通の終末のお悩みや振り返りだなあとしみじみして終了。
人類は滅亡しました。ちゃんちゃん。

悪くはないんですが、渡部さん以外の誰か新しい人でやっても十分楽しめたかなって。

総評

普通に無難に星3つ。
そもそも伊坂さんって読めるけどめっちゃ好きでもなかったことを今更思い出す。
でもフィッシュライフや死神の精度は読み返したいんですよねー。忘れてるけど。
テンションがはしゃがないと4や5はつけないので、伊坂作品なら3は悪くない評価ではなかろうか。
契機がなくても再読させる力はあるので。