かのくらかの

かのくらかのが送るかのくらかの。と言われたい。娯楽感想日記。

ネタバレを含みます。

武士の家計簿 感想

武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新 - Wikipedia

小説…?

映画が面白かったのでつい原作の本を買ってしまったのですが、そこは新書。
ああいう表紙って全然食指が動かないんですよね。…実用書?Wikiでは教養書ですが、縁遠すぎる。
普段小説以外読みませんし。

ですが、数年ぶりに思い出してラノベとの交互食の固めの本がぱっとでなかったので読んでみました。

内容は面白かったです。
…何書けばいいんだ?

武家社会の一端を貧しい一家の家計簿という面から掘り下げていくのは、歴史の事前知識が無い自分でも面白かった。

家計簿を残した猪山家は算術で身を立てます。
個人の資質が大きい部門で禄をもらっていく姿はがんばれと思うし、子供が成長し切米をもらえるようになると収入が2倍近くになって読んでてやったぜ!となったり、面白いですね。
とはいっても収入は全然増えないし、役職がころころ変わって、江戸詰めも収入が見合うほど増えない悲しみ、その背景にむずむずとしますし、
他方、多種多様な人として武家社会としての支出に奔走される猪山家の姿は「こんなのどうやって乗り切るんだ」と頭を抱えたくなります。
固定給。副業難しい。支出減らすことも難しい。
猪山家は(それでも並程度の)借金や給料の前借、借金交渉に家財売り払いまでも行い家計簿をつづっていきます。
これが十分エンタメになっている。
著者の解説も易しく、猪山家の人々の感情の描写は昔の人を実に身近に感じさせますね。

物語としては家計簿に苦しむ幕政時代の第一部を乗り越え、怒涛に近代化していく海軍時代の猪山家へと移り変わっていきます。

政治に大きくかかわらない猪山家はあれよあれよと変わる世界でその能力から海軍に所属し、
気づけば給料は円となり、(親類含めた)没落する華族士族をよそにお高い給金をもらえる立場に気づいたらなっているんですよね。

紙の鯛を出していた立場から一転、投資先に悩み、農地購入は利回り・リスクが悪いとやめておく姿はなかなか趣深かったです。

そこからは東京・金沢間の書簡をもとに、時代の移り変わりと武士の時代の終焉を眺めるんですけど、
昔に比べ安泰になったのにもろ手を挙げるわけでもなく幕府が心に残っている直之さん。
特権階級の武士としての給付額と、今の給料を比較してしまうご母堂など、
さまざまなことが起こるも案外あっけらかんと一部では時代進ん武士がなくなっていくのだなあと思いました。
いやほんとはもっとすごいことなんだろうけど。日本は農民革命がなかったことにも触れてましたしね。

そんなこんなで家計簿というお金の面から書かれた本書は、すらすら読めて面白く、感情移入もできてドラマチック。個人的には新書のイメージが少し変わった本でした。

評価としては再読に耐えうる星3つ。
でもその前に映画見直したいなぁ。

思い返せばあれで堺雅人を知ったんだった。
原作を読んだ上でなお言える、映画もおすすめです。